パワハラ防止措置義務化

はじめに

 

最近、よく耳にするようになったパワハラと云う言葉。

 

ITの発展、情報通信産業の成熟、SNS等の普及に伴い、労働者・使用者問わず耳にする機会も多いですね。

 

『これってパワハラですか?』『パワハラを受けている』などなど巷間では、パワハラやハラスメントと云う言葉が、やや一人歩きしている印象も受けます。

 

雇用契約に関連している問題ですから、パワハラを受ける可能性、加害者となる可能性は、ほぼすべての労働者といっても過言ではありません。※後述しますが、部下がいる上司のみが加害者となるわけではありません。同僚間でもパワハラとなり得ます。

 

今回はそんな、パワハラに関して記事を掲載します。

パワハラ防止措置義務化はいつから?

企業規模に応じて以下の期日から適用されます

大企業→2020年6月1日~

中小企業→2022年4月1日~

こんなに多い!?パワハラ等民事上の相談!

上記は厚生労働省の資料です。リンク先はコチラ

 

サブタイトル及び資料にあるように民事上の個別労働相談件数の総数約27万件のうち、いじめ・嫌がらせが約8.3万件とトップとなっています。

 

ここで注目していただきたいのが画像最下段

※4「民事上の個別労働紛争」:労働条件その他労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争(労働基準法等の違反に係るものを除く)。

 

この文章は何を意味するのでしょうか。次の章で民事上の個別労働紛争について触れます。

 

件数等の詳細は↓下記↓のアイコンクリックで資料をDLできます。

ダウンロード
H30個別労働紛争解決制度の施行状況
厚生労働省資料
H30個別労働紛争解決制度の施工状況.pdf
PDFファイル 2.6 MB

民事上の個別労働紛争とは何か?

例えば、以下のケースは民事上の個別労働紛争とはなりません。

 

・事業主が解雇の意思表示をしたにも関わらず、解雇予告手当30日分の支払い又は予告期間30日を置いていない。

・事業主が雇入れに際して書面で労働条件を明示していない

・賃金の支払いに際して、弁償金等を一方的に控除する

 

これらは労働基準法(上から順に20条・15条・24条)に定められている事項であり、違反した場合に罰則規定も設けられています。

 

これらの違反事案に対しては監督機関である労働基準監督署が監督権限に基づき是正のための必要な措置が課せられます。

 

 

翻って、以下のケースが民事上の紛争となります。

 

・事業主が解雇をしたが、有効性(有効または無効)について、当事者間の争いがある

・事業主が賃金制度を変更した結果、生涯年収が下がった。納得がいかない。

・事業主からパワハラを受けている。

 

これらは、監督機関が判断できるわけではありませんので、労働基準監督署による監督権限は及びません。

従って民事上の紛争となるのです。

確かに、『賃金を向上させなさい』『賃金変更は無効だ』『解雇するな』『それはパワハラだからもっと優しく指導しなさい』などと行政機関に指導されたら、それはもう私的自治の原則を過度に侵すことになりかねませんからね。

 

何かにつけて『労働基準監督署へ行くぞ』とおっしゃる方もいるのですが、事案の性質に応じて行政へ救済を求めるべき案件なのか、民事上の案件となるのかの切り分けができていないことが推測されますね。※個人の主観です

 

少し逸れましたが、パワハラに関しては民事事件として争うことになります。

但し、殴る蹴るといった事案であれば、刑事事件として加害者は逮捕起訴される恐れがあります。

パワハラとは何か?

では、どういった行為や発言がパワハラとなるのでしょうか?

 

ここが非常に重要となります。

 

厚生労働大臣の諮問機関 労働政策審議会雇用環境・均等分科会の指針案では、職場のパワーハラスメントを以下のように定義づけています。※赤字部分は筆者の意訳です

 

 

①職場の優越的な関係を背景とした言動

上司→部下は勿論、ベテラン部下→新任上司、同僚多数→同僚1人なども優位性があるとみて問題ないでしょう。

・言動とは発言・行動のことです。

 

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

・業務上の指示・指導は優越的な関係から発せられるが、それが必要かつ相当な範囲に収まっていると評価されれば問題はありません。

・ただし、暴言や暴力などのおよそ威圧的な態度は相当な範囲を超えると思われます。

・同様に、プライベートへの過度な干渉や、業務に関係のない人格否定発言も業務上必要とは評価されにくいでしょう

 

③労働者の就業環境が害されるもの

・上記行為によって精神的または身体的に苦痛を与えられ、労働者が就業するうえで看過できないほどの支障を生じること

・この場合の労働者は社会一般の平均的な労働者が基準となります。そのため、世間一般で『そのくらいのことで…ふつうは我慢できるよね…』と大半の方が感じるような苦痛はパワハラには該当しないとされ得ます。

 

上記の①②③全てを満たすものが職場のパワハラとなります。

パワハラによるリスク

次にパワハラが企業に与えるリスクにはどんなものが考えられるでしょうか?検討したいと思います。

 

主だったものには以下の4点が挙げられます。

 

1・パワハラ被害者による民事損害賠償請求リスク

→根拠条文:行為者に対しては民法709条・民法719条/企業に対しては民法715条・労働契約法5条・民法415条・改正労働施策総合推進法(以下パワハラ防止法とします)30条の2※今回の改正により新設

 

2・パワハラ被害者の退職による人材補充費用増加リスク

→人手不足時代において、人材採用にかかる費用は増加傾向にあります

 

3・加害者被害者以外の社員のモチベーション低下によるパフォーマンスの低下

→モチベーションと生産性は比例関係にあります

 

4・パワハラ企業・ブラック企業など謳われてしまう風評被害

→こうした評判が立ってしまえば、ますます人材採用は困難となりかねません。

 

上記の例の中で1は法律上のリスク、2・3・4は経営上のリスクに分類できます

今回の改正がもたらすもの

今までの条文と今回の改正によって追加となった部分をわかりやすく表にまとめてみました。

追加となった規定はパワハラ防止法30条の2・30条の3です。

誰に対して 根拠条文 内容
行為者 民法709条 不法行為者に対して損害賠償責任の追及
民法719条 共同不法行為者に対して損害賠償責任の追及
就業規則等

企業の秩序維持権に基づく、懲戒処分・解雇等の処分

求償権に基づき、企業が被害者に対し支払った損害賠償金額を、企業から行為者に対して請求

企業 民法715条

不法行為加害者を使用し、事業の執行について第三者に損害を加えた場合の責任

いわゆる使用者責任

労働契約法5条

企業が、労働者に対し、安全に労働できるよう配慮する義務

いわゆる安全配慮義務・健康配慮義務

民法415条

労働契約に付随する安全配慮義務や健康配慮義務を履行しなかったこと(=債務不履行)に対して損害賠償責任

パワハラ防止法

30条の2

30条の3

まず、企業に対し、有為的な関係を背景にした言動により労働者の就業環境が害されないように

(1)相談に応じ、適切に対応するための体制の整備

(2)その他雇用管理上必要な措置

が義務付けられました。措置義務義務の不履行に対して債務不履行による損害賠償責任

 

次に

(3)相談したことを理由にする不利益取り扱い

が禁止されました。もし相談したら解雇だ降格だと言われてしまっては、誰も相談することができず、上記の規定が骨抜きになってしまいます。

 

最後が

(4)パワハラ問題に関して、労働者に関心と理解を深めるための研修の実施等必要な配慮に努める

(5)上記(4)同様に、労働者でなくとも事業主(役員)自らパワハラ問題に関して理解を深め、注意を払うよう努める

となります。これは努力義務ですので、争いがあった際に企業規模や実態を見て判断されるでしょう。

どうして追加の規定が設けられたのか

改正前にも不法行為責任や債務不履行責任、安全配慮義務といった規定はあり、請求の根拠となっていました。

 

なぜ、新たに追加されたのでしょうか。

 

おそらく、安全配慮義務・健康配慮義務といった解釈次第でどうとも読み取れるあいまいな規定ではなく、より事業主側に明確かつ具体的な防止措置を講じる規定とすることで紛争となるような言動の抑止、紛争の泥沼化を避けることを期待しているのではないかと考えられます。

 

パワハラ行為そのものを禁止することは『部下や同僚に対する指導・育成をどのような受信者が感じても優しく丁寧にしろ!』と言うことにつながりかねませんので、パワハラ自体の禁止規定を設けることは表現の自由の観点から困難でしょう。人間は、例え同一人物の同一内容の表現であっても、受信者側の解釈次第で傷ついたり、癒されたり、感謝する生き物ですから。

ハラスメントに対しての個人的見解

確かに、冒頭で触れたようにパワハラ等の相談は増加の一途をたどっています。

 

これは何も『昔の人は優しかった』『昔は自分たちが我慢できていた』というわけだけではありません。

 

今も昔も変わらぬ、職場の人間関係上のトラブルを『ハラスメント』という名で呼んでいるだけなのではないかと思えます。

 

何故ならば、人間である以上Aさんのことは好きだけど、Bさんは苦手だな~。と思うこと自体は何らおかしいことではありません。

 

わりとさっぱりした方は『あの人は私のことが嫌い。私もあの人が嫌い。』で止まるのですが、承認欲求に渇望している現代では『あの人は私のことが嫌いなのは許せない。私はすべての人間を平等に扱える!』旨を主張する方が少なくありません。こういった主張をする方にとってパワハラと云う言葉は自己の認識を改めないで相手方を責め、批難するための丁度良い言葉なのでしょう。

 

個人は個人を平等に取り扱うことなど強制されていないのですし、感情がある限り、どだい無理な話なのです。

 

しかしながら、それはあくまでも完全に私人間の領域での話となり、会社の業務において『思う』だけに留まらず、実際に『行動・発言をする』これが問題なのです。部下を従える立場にあるものが部下を育成・指導する業務上の責務を怠り、自身の部下のモチベーションを低下させてしまうような言動があれば、それは適切な育成・指導であるとは思えません。

 

そういった意味で、パワハラ防止に取り組むメリットは、単に法的義務の履行にとどまらず、社内の雰囲気の向上、相互に尊重・承認し合える職場づくり、表現・指導方法に関する研修の実施によるリーダー力の向上、人材教育の見直しによる人材の定着等が考えられますね。

 

ハラスメントハラスメントにご注意を!

企業によっては、パワハラに過敏に反応してしまう企業も少なくありません。

 

パワハラ被害を訴えるケースでは深刻な事例もありますが、筆者自身の経験では被害者側が自己の救済やパワハラの中止を求めるだけにとどまらず、憎悪の感情を持って加害者の処分(解雇や異動、減給、降格等)を強く求めたりする、いわゆる『ハラスメントハラスメント』(ハラハラの例:それってパワハラですよ。と言い、注意指導に従わない、態度を改善させない等)とも捉えられかねない事例もあるのです。

 

このようなハラハラ発言(パワハラ被害に名を借りた指導・教育に不服従な行為等)に過敏に反応し、委縮してしまっては、適切な指導・育成などできるわけはなく、企業風土はたちまち衰退してしまうでしょう。

 

パワハラ相談ケースなのですが、同情的にならざるを得ない案件もあれば

・『ただの相互の喧嘩、感情的対立なのではないか?』

・『それは指導に従うべきではないか?』

・『確かにその部分を切り取ると暴言にもなり得るが、そこに至るまでの経緯に被害者側の過失もあるのではないか?』

と思える案件も多々あります。

 

深刻な事例も上記のような案件も一様に『パワハラ案件』で括れます。

今回の改正に当たり、『パワハラ案件には厳しく当たる!』と基準・定義も曖昧なまま周知すると指導・教育時の委縮にもつながりかねませんのでご注意ください。

事実に触れている人間であれば『これはパワハラには該当しない!』と断言できるかもしれませんが、事実の報告を受ける側・判断をする側にとっては『パワハラ案件』となってしまい、過敏な反応をすれば重大すぎる処分や冤罪を発生させかねません。

 

企業にあっては、今回の改正を待つまでもなく相談窓口の設置、研修の実施だけではなく、正確な調査、適正な判断をする為の判断基準の設定等、課題を挙げれば枚挙に暇がありません。

企業におけるパワハラに関する検討課題一覧

検討課題 検討内容 備考
就業規則等の整備(企業秩序維持権に基づく) 

(1)パワハラ加害者に対する懲戒処分規定(処分内容・弁明機会の付与等)

(2)加害者に対し、処分決定者による処分前の弁明機会の付与

(1)ハラスメントの定義等について別途ハラスメント防止規程作成の検討

(2)処分決定者の構成(独任制とするか合議体とするか。)

 

相談窓口の設置(パワハラ防止法30条の2に基づく)

(1)どの部署・担当者が主体となるのか・外部機関への委託検討

(2)匿名相談の可否

(3)相談方法(メール・電話・対面)

(4)相談内容の秘匿性を担保する体制

(5)相談を受け、事案に応じた調査方法の検討

(1)社内窓口の場合、相談内容の秘匿性が課題。外部機関の場合事案の捕捉性・正確性・社内調査機関への引継体制が課題

(2)匿名相談の場合、相談者に対し調査結果のフィードバックは不可(≒情報提供どまり)となる。

(3)記録保持性・対応の慎重性を加味し決定

(4)秘匿性が喪失されれば、相談窓口自体が形骸化する

(5)加害者・相談者の社内社外含めた人間関係、周囲の評価、過去の類似事例の有無

研修の実施・パワハラ問題に関する理解の促進(パワハラ防止法30条の3に基づく)

(1)研修の実施者(社内・外部)

(2)研修の対象者(役員・管理職・一般社員)

(3)研修効果測定の有無

(1)(2)(3)すべて努力義務であるが、パワハラ防止策として研修は効果的

まとめ

パワハラ防止措置義務化のポイント

☑パワハラ防止措置義務は民事上の義務

☑違反しても罰則なし

☑但し、防止措置義務を履行せずにパワハラ被害者から民事損害賠償請求等で訴えた際に、非常に不利

☑安全配慮義務・健康配慮義務・職場環境配慮義務といった抽象表現がより具体的に明文化

☑措置義務を履行するにあっては相談体制の整備検討・研修の実施・加害者への処分等が重要

ご提案メニュー

商品・サービス名 金額(税抜)
顧問先 顧問先以外
就業規則の見直し・ハラスメント防止規程の新規作成 50,000円~/回 150,000円~/回
上記にかかる従業員説明会(労基法89条に基づく周知義務の履行) 50,000円~/回 150,000円~/回
パワハラ防止措置義務の履行補助(相談窓口設置にかかるアドバイス・社内環境に応じた分析補助) 原則として無料 提供しておりません
従業員研修の実施 50,000円~/回 100,000円~/回
懲戒処分を合議体(例:懲罰委員会・パワハラ防止委員会・風紀委員会)とした際の構成メンバーとしての参加・参与 30,000円~/回 提供しておりません

当事務所へご依頼する際の一般的な流れ

 

①【お問合せ・面談日予約】

・電話または問合せフォームにて、依頼内容等をお聞かせください。

・その後、面談希望日時の調整となります。

 

②【面談】

・事務所へご来所(〒161-0035東京都新宿区中井1-4-4-102

又は、

・ご指定の場所で打合せ(遠方の場合は旅費・交通費を請求いたします)

 ③【契約・着手金のお支払】

・契約書に署名・押印

・着手金のお支払

現金払い・口座振り込み・各種クレジットカード・電子マネー決済等の対応可能です。ただし、一部対応できない場合があります。

 

【規程類・提案書類の作成・打合せ】

・ご依頼後、ご入金確認後に、規程類等の作成事務を行います。

・時期や案件にもよりますが、時間がかかる場合があります。

 【説明会や研修の実施】

・日程の候補につきましては複数日お願いいたします

・顧問先以外でも軽微な問合せ等であれば、導入後も多少のフォローは可能です


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