☑カスハラ・悪質クレームの現状
☑カスハラ・悪質クレームの定義
☑クレーム発生の仕組み
☑クレーム撲滅は無理ということを理解する
☑カスハラ・悪質クレームがもたらす被害
☑カスハラ・悪質クレーム放置で従業員が辞めるという人的リスク
☑通常の苦情・クレーム→真摯に対応、カスハラ・悪質クレーム→毅然と対応、『毅然』の中身を掘り下げていますか?
☑『悪質クレーマーから従業員を守る』これも立派な経営課題
☑リスクマネジメントとしてカスハラ・悪質クレーム対策が重要
最近、よく耳にするようになったハラスメントと云う言葉。
下記にいくつか列挙します。
有名なものから無名なものまで枚挙に暇がありませんね。
今回は、カスタマーハラスメントについて、発生原因や放置することのリスク、従業員への対応などを、以前、商工会議所のセミナーに登壇し講演した内容も交え、記事にします。
現在、カスハラや悪質クレームについて、メディア等で話題になることも少なくありません。
小売業や、外食産業、医療・福祉業など、不特定多数の顧客を相手に物・サービスを提供する産業においてはカスハラ・悪質クレーマーが増加しているように思えます。
民間の調査会社においてカスタマーハラスメント実態調査を実施したところ以下のような結果となりました。
(1)直近3年間で半数以上が、「カスタマーハラスメントが増えている」と回答。
(2)クレーム処理を行っている上で、「カスタマーハラスメントに困っている」と回答した人は約6割。
(3)約7割が「不当な要求」の経験あり。
(4)従業員を守る顧客対応マニュアルを作成している会社はわずか3割。半数以上は「作成予定もなし」。
(5)対応マニュアルの課題は「対応者のスキルアップ」「対応できる人材の育成」「対応方針の明確化」。
(6)カスタマーハラスメント顧客対応に困ったときに「どこに相談していいかわからない」が3割。
(7)対応によるストレス増加は約9割、約8割が業務に影響がある「仕事意欲への低下」を感じ、 約7割は体調不良リスクがあると回答。さらに約半数以上に休職・退職の危険性も。
(引用元:株式会社エス・ピー・ネットワーク https://www.sp-network.co.jp/news/press-release/spn20190530.html)
現時点で、カスハラ・悪質クレームの明確な定義はありませんが、筆者は通常の苦情とカスハラ・悪質クレームを以下の要素を考慮して分類しています。
(1)取引行為等の社会的な関係を背景に
(2)相手方の履行した若しくは履行しようとする物・サービスの提供に対し
(3)約束された品質や自己の有する期待との乖離を理由に
(4)正当な権利に基づき苦情を述べ、改善や反省を促し、代替措置の履行や原状回復のための費用を請求する行為
(5)相手方に対し、社会通念から逸脱した方法で、著しく精神的な苦痛を伴う謝罪行為や慰謝料等の過剰な金品を要求する行為
いかがでしょうか。
重要ポイントは(3)と(5)ですね。
通常の苦情については(1)~(4)で留まりますから、事業者として顧客の言い分に耳を傾け、自己のサービスの向上に役立てるための有益な情報となり得ます。もちろん(3)にあるように、顧客が過度な期待を抱いている場合や品質について誤認している場合もあるため、全てが有益な情報というわけではありません。
カスハラ・悪質クレーマーは(5)の行為が際立ちます。
例えば、居酒屋でAという品をオーダーしたにもかかわらずBが提供されるというオーダーミス程度であって、
・BがAより廉価であれば受領し、差額の返金を求める。
・Bの受領ができないのであれば、引き続き、Aの提供の履行がされるよう催促する
・BがAより高価であれば、Aの早期提供を求める又はAの価格のままでBの提供を受領する
このあたりは(4)の正当な権利の基づく請求は踏み越えていませんね。
同様の事例でもカスハラ・悪質クレームの場合は
・Aを持ってこい!Bももらう!店の間違いで迷惑を被ったのだから無料だ!
と、とかく要求が肥大化します。
ここで重要な観点は『顧客の要求が、損害の回復という観点から逸脱したものとなっていないか?』という点と『現実に提供された物・サービスの品質は自社基準をクリアしているか?クリアしているにも関わらず、何らかの要求を求める顧客側の期待は過度なものではないか?』
カスハラ・悪質クレーム対応の重要ポイント
①その要求は適正なものか?損害の回復という視点に立って考えること
②提供された物・サービスについて自社基準をクリアしているか?
顧客側の過度な期待の可能性も考慮すること
クレームの発生は以下のような経緯を辿ります。
事業者・企業は物・サービスを売る若しくは提供する対価として金銭を受領する。
顧客は物・サービスを自己の欲求を充足させる又は不便を解消させると期待し、その対価として金銭を支払う。
顧客は購入した物・サービスと自身が購入に至るために抱いた期待を比較します。
その際に、
購入した物・サービスの効用(現実)が購入前の期待を上回っていれば満足となり、
購入した物・サービスの効用(現実)が購入前の期待を満たしていなければ不満となります。
不満を持つ顧客は潜在不満層(二度と買わない・利用しない・低いレビューを書く)と顕在不満層(クレーム・苦情を申し出る。事業者へ措置等を要求する)に分かれます。
顕在不満層は正当な要求で留まる顧客と悪質なクレーム(カスハラ)をする者に分かれます。
この不満を抱いた顧客の一部が不満を回復するために事業者側に苦情を申し出るのです。
少しわかりづらいかもしれませんが数式にすると以下のようなイメージです。
上記の公式(!?)より、必然的にクレーム等が多い業界・職種をご紹介します。筆者の主観です。
上記の業界だけにとどまらず、客商売であれば、クレーマーのような輩は必然的に存在しますので参考程度にしてください。
一般職・管理職・経営者層問わず、『クレームはあってはならない。顧客満足を追求すればクレームはなくすことができる。』と主張される方がいますが。
これは、大きな誤りです。
先述したように、クレームは顧客の期待と現実の差異から発生します。
顧客の期待は個々の顧客によって異なります。
牛丼店に高級フランス料理並みのサービスを求める方もいれば、民宿に高級ホテル並みの対応を求める方もいるのです。
事業者として提供する物・サービスの質を維持・向上・均一化することは可能ですが、いくら維持・向上・均一化させても顧客の期待が均一化できるわけではありません。
筆者自身の経験則となりますが、『クレーム撲滅!』を標榜している組織は、その無理解からでしょうか、『クレームの撲滅→存在するものを否定→不正行為や隠蔽の容認』をするようになります。人数規模が多ければ多いほど無理解者が介在する確率が高くなるため、大企業こそ、このリスクを孕みます。一種の大企業病ともいえますね。※存在するものを否定するためには隠蔽すること以外に途はないからですね。
また、このようなスローガンを掲げると、得てして『現場でうまく対応できていないことが原因』と結論付けられてしまい、直接部門と間接部門の温度差が発生してしまい、従業員の士気低下につながります。
では、カスハラ・悪質クレームを含めクレームがもたらすリスク・損害にはどのようなものがあるでしょう。
以下のようなリスク・損害が考えられます
いずれをとっても企業にとっては無視・放置できないリスクですね。
また、最近顕著なのは5の人的リスクです。
これは、不特定多数に接する、いわばサービス提供業種にとって、理不尽なクレームの対応がストレスとなり、人手不足を加速させている遠因なのかもしれませんね。
下記のような理由から顧客対応を苦に思い、退職や精神疾患に罹患する従業員がいます。
残念なことに世の中には先天的・後天的要因を問わず、このような輩は存在するのです。
カスハラ・悪質クレームは従業員退職の原因ともなり得ます。
現代人の多くが、仕事を通じて、賃金・労働時間等の可視化・数値化が可能な労働条件以外に、自己実現欲求や承認欲求・所属欲求を叶えるためのフィールドとして、会社へ入社し、社会と接触・関係を持ちます。
上記の欲求は『人・組織から承認されたい(=感謝されたい)』、『人・組織から必要とされたい』、『仕事を自己実現の一翼を担うものとしたい』などの言葉に置き換えることができます。
これらの欲求を意識的・無意識的に業務に求める従業員にとって、顧客へのサービス提供の対価として顧客からの感謝・満足感を得ることで、日々の業務の中で上記の欲求を満たしているとも捉えられます。※もちろん、顧客からだけではなく同僚・上司・部下から必要とされる、承認されることも欲求充足要件の一つです。嫌な顧客相手でも周囲からの期待や信頼を背負うことで我慢できることも多いですからね。
カスハラ・悪質クレームはそんな従業員に対して『提供したサービスに対し、苦情・不満を強く言い、自己を否定する、恐怖心を抱く対象』となります。誰しも恐怖心が存在するのです。その恐怖から逃れる手段として最も効果的なことが退職という選択肢です。会社・上司・同僚の理解やサポートがあれば退職ではなく、協力して乗り切るということも考えられますが、理解やサポートがなければ退職に至ることは自然なことです。
こうなってしまうと、せっかく育てた人材が退職、すなわち企業の生産活動から離脱します。
これは、人材育成費用をどぶに捨てる行為ともいえますね。
『うちは悪質クレームには毅然と対応するようにしている』という企業もありますが、実はこの『毅然』という言葉が厄介で、事後的にトラブルが拡大した時に上司から対応者に向けて『毅然と対応しろと言ったはずだ!』のように用いられかねません。もうお気づきかもしれませんが、『毅然』という言葉の中身をどれだけ掘り下げているかが重要なのですね。『毅然』の中身が、『まず悪質クレームの定義は○○で、損失補償の視野から○○の請求は呑めるが、それ以降は応じない。××という状況になったら△△と連携し対応する。社内の連携フローも構築している。』あたりまで掘り下げられていれば問題ないと思えますが、実際ここまで掘り下げている企業は少ないかもしれません。
これからの企業にとっては企業の社会的責任(CSR)・経営上のリスクマネジメントの観点からもカスハラ・悪質クレームから従業員を守るということも重要な課題となりますね。
では、どのような措置を講じるべきでしょうか。
まずは、筆者的に企業のクレームへの対応制度として望ましくない点と望ましい措置を表にまとめました。
望ましくない対応 | 望ましい対応 | どのような視点によって講じる措置か |
1人の従業員に対応を丸投げ | チームで対応 |
・対応者の心理的負荷軽減 ・社会通念上から逸脱した要求であるか否かの冷静な判断 |
単純謝罪 | 限定謝罪 |
・『不快な思いをさせたことについては申し訳ありません』と限定的な謝罪※単に『申し訳ありません』だけでは事実についての謝罪ととらえかねられず、故意や過失を認める(=法的責任の発生)ことになりかねない |
顧客の言い分丸呑み | 事実を慎重に確認し対応 |
・請求によって利益を受ける側がその事実の存在を立証しなければならないという至極当然の立証責任ルール ・事業者側は顧客からの口頭の主張のみを信じなければならない義務はない。 ・事実を確認した後、事実を認定し対応について協議。悪質クレーマーは冷静な判断を嫌うためスピード解決を望む傾向あり ・顧客の言い分丸呑み=従業員の名誉を傷つけることになりかねない ・『事実関係を確認して後日連絡しますので、お名前・住所・電話番号を教えてください』←この対応に対する返答で相手方の意図がわかる場合があります。 |
クレーム撲滅の標榜 | クレームの必然的な発生を認識したうえで『事業者としての提供責務』と『顧客の期待』の要因を分析 | クレーム撲滅を標榜すると従業員や現場に丸投げという企業体質や隠蔽・不正行為の容認になりかねない |
穏便に、平和的な解決 | 分析の結果に基づき、不可能な対応・要求はできない旨を伝える | 悪質なクレーマーやカスタマーは企業側の『穏便に、平和的に』と思う意図を悪用する。 |
社内のみで解決 | 迷惑行為が犯罪行為と発展した場合には速やかに警察や専門家へ | 同上 |
早期解決 | 協議による解決ができないのであれば請求者側からの合理的な主張・方法による請求を待つ姿勢 | クレーマーは自己の要求が法的に通らないことを知っているため法的措置に踏み切られる事例はわずか。 |
これは、筆者の経験則も含みますが概ね以下の対策を講じる必要があるでしょう。
☑カスハラ・悪質クレームの現状
☑カスハラ・悪質クレームの定義
☑クレーム発生の仕組みの理解
☑クレーム撲滅は無理ということを理解
☑カスハラ・悪質クレームがもたらす被害が深刻であるとわかった
☑カスハラ・悪質クレーム放置で従業員が辞めるという人的リスク
☑通常の苦情・クレーム→真摯に対応、カスハラ・悪質クレーム→毅然と対応、『毅然』の中身を掘り下げていますか?
☑『悪質クレーマーから従業員を守る』これも立派な経営課題
☑リスクマネジメントとしてカスハラ・悪質クレーム対策が重要
※記載内容に誤りがある場合でもいかなる責任を負いません。
※記載内容の無断複製・転載を禁止いたします。
ワイエス行政書士・社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士
行政書士
佐藤 安弘
『皆様にとって、身近にあって、頼れる存在。そして少し愉快な社会保険労務士・行政書士であろうと思います。お気軽にご相談ください。』
ご連絡は下記フォームからお願いいたします!