以下の表をご確認ください。
本ページは主に派遣業界を除いた解説となります。
大企業 | 全ての派遣会社 | 中小企業 | |
施行時期 | 2020年4月1日~ | 2020年4月1日~ | 2021年4月1日~ |
根拠法令 | パート・有期雇用法 | 労働者派遣法 | パート・有期雇用法 |
改正・追加となった条文 | 8条・9条 |
派遣法30条の3 派遣法30条の4 |
8条・9条 |
端的に一言 |
不合理な格差の禁止 等しきものを等しく扱え |
合理的な賃金規定・評価制度の導入 |
不合理な格差の禁止 等しきものを等しく扱え |
早期対応の必要性 |
〇 取締法規ではなく裁判規範だがCSR等の諸観点から早期対応は必要 |
◎ 事業報告書に添付が必要 派遣業界にとっては実質的な取締法規に近い |
△取締法規ではなく裁判規範 |
かつての日本では、雇用区分は大別すると正社員・パート、アルバイトでした。
また、非正規労働者の割合は、雇用者全体でも約15%前後と、低い水準であり、大半の労働者は終身雇用・年功序列制賃金という枠組みの中で働いており、それが将来への安心につながり、家族を持ったり、家を購入したりといったことができました。(1980年代)
その時代にあっては、企業の基幹的業務については社員が担い、臨時的業務・補助的業務についてはパートタイマーが担うといった社会が形成されていました。※派遣労働が原則禁止とされていた時代です。
そんな時代も、もはや過ぎ、フリーターの増加が問題となり、雇用の調整弁として派遣労働者が誕生し、果ては解雇権濫用法理に慎重になるあまり正社員採用を少なくし、代替措置としての有期契約労働という働き方まで誕生しました。(2000年代)
いまや、正社員以外の労働者=非正規労働者の雇用割合は4割近い水準を維持するようになりました。
下記資料をご覧になればわかるように、正社員は年齢とともに賃金が上昇することがわかりますが、非正規労働者の方は賃金水準が全年齢で一定の水準を保ち続けています。
今や4割近い労働者の方が将来の不安や収入の増加が見込めない事になっています。
これでは、経済の発展は望めません。家族を持つことも、家を購入することも困難です。
つまり、非正規労働者の雇用の安定は経済的側面からも非常に重要となっているのです。
問題となっている対象はズバリ
不合理な賃金格差です
以前は
正社員→基幹的業務
非正規→臨時的・補助的業務
この理由で説明が付いたのですが、4割近い労働者が臨時的・補助的業務に就いているということは考えられません。
また、実態を見ると、特に大企業に多く見られますが、
正社員→総合職のキャリアパスに従い、転勤・異動を重ねて出世
非正規→同一部署で異動せず、長く働き、結果として専門性が身についていて業務のことが一番わかる。
かつてのサラリーマン川柳で
クレームも 社員じゃわからん パート出せ |
と歌われていて、なかなか秀逸な皮肉だなと感じたものです。
そう考えると、現在の多様な働き方が推進されている世の中で、
正社員・非正規労働者の間の賃金格差について、現実的に担っている役割の視点で見ても、『非正規だから賃金低い』という説明は、『合理性を失っている』だけにとどまらず、『不合理』と言っても過言ではありません。
同一労働同一賃金について、リーディングケースとなる判決が先日ありました。
ともに有期契約労働者と無期契約労働者に対する賃金格差に関する判例です。
また、判決が出る前に行政府が作成した、同一労働同一賃金に関するガイドライン(案)もご確認ください。
同一労働同一賃金の骨子は均衡待遇と均等待遇にあります。
まず、均衡待遇について見てみましょう!
根拠となるパート有期法の条文の概要は以下となります。
(第8条・不合理な待遇差の禁止)
①職務内容②職務内容・配置の変更の範囲③その他の事情 の内容を考慮してパート有期労働者と正社員間の不合理な待遇差の禁止
いわゆる、均衡待遇規定ですね。これは
『前提条件が異なる者については、前提条件の違いに応じた待遇差にとどめなさい。その待遇差が不合理だったら、違法となりますよ』という内容です。
※いわゆる裁判規範の為、不合理な待遇差であっても行政の取締の対象にはなりません。
ここでポイントなのが不合理という単語となります。
見出しにある通り、『合理的でない≠不合理』の式に違和感を覚える方も少なくありません。
なぜなら、違和感を覚える方は合理性の判断を下の画像の通り認識しているからです。
式で表すと『合理的でない=不合理』と思っている方の認識イメージです。
このイメージ図において、②の合理的ゾーンにいないことは、中心線の左のゾーンに入るので、①の不合理ゾーンとなります。
この認識こそが大きな誤りなのです。
この認識のまま同一労働同一賃金への対応を進めようとすると、不合理が禁止されている→合理的な賃金制度を作らないと…という思考に陥ります。
専門家目線でも合理的な賃金制度の構築は困難です。
主観ですが、合理的な賃金制度作成は無理・無茶・自己満足と考えています
例:月給制労働者は労働日数が月ごとに違うのに賃金変動なし。時給制労働者にあっても同じ1時間で繁閑差がある…等々、合理的でないことについては、枚挙に暇がありません。
では、正しい合理性の認識はどうなるのでしょう!?
下図をご覧ください。
このイメージ図こそが合理性を判断するにあたって、非常に重要な認識イメージとなります。
この図においては、②の合理的ゾーンにいないということは、①の不合理ゾーン又は③の合理的ではないが不合理ともいえないゾーンに属することになります。
もうお気づきでしょうか?
法が禁止しているのは不合理な待遇差です。
パート有期社員と正社員間の待遇差に違いがある場合に、その差が前提条件の違いを加味したうえで、①の不合理ゾーンにあることを禁止しているのです。
簡単に言ってしまえば、②の合理的ゾーンにいなくとも、③の合理的ではないが不合理ともいえないゾーンにいれば、法が禁止する不合理な待遇差ではないということになります。
また、もし、パート有期法の8条に該当するか否かが争いとなったとき、証明責任があるのは、
『今の待遇差は不合理な待遇差である』→『パート有期法の8条が禁止する不合理な待遇差に該当する』→『従って、違法であり、不法行為である』ことを立証しなくてはいけないのは原告(労働者)側となります。
証明責任については、以下のような言葉で自分なりに解釈しています。
『UFOや幽霊が存在しないことは証明できない。UFOや幽霊の存在を主張する側が、そのことについて証明できなければ、主張者側が負ける』
これは法治国家が法治国家であるための根幹的なルールです。
※中世期の魔女裁判では『被疑者が、請求者から指定された方法で無罪を証明しなければ、有罪』となっており、この裁判が法治国家とは程遠いものに基づいたものであることは容易にわかりますね。
次は、均等待遇について見てみましょう。
根拠となる条文の概要は
(第9条 差別的取扱いの禁止)
①職務内容②職務内容・配置の変更の範囲が同じ場合は、差別的取扱いを禁止
これが、均等待遇規定ですね。これは
『等しき者を等しく扱え。』です。
もう少し掘り下げると『パート有期社員と正社員間で①職務内容②職務内容・配置の変更の範囲が等しき者間の差別的取扱いを禁止する』という内容です。
差別的取扱いとは『合理的な理由のない通常とは異なる取扱いのこと』をいいます。
この条文に関するポイントやフローは、以下のようなものと想定されます。
(1)パート有期社員の労働者側が、『自己が、①職務内容②職務内容・配置の変更の範囲が正社員と等しき者』であることを主張します。
この段階でかなりのハードルですよね…もちろんこの段階で証明できなければ
原告(労働者)側の負けです
(2)今度は上記の(1)の『①職務内容②職務内容・配置の変更の範囲が正社員と等しき者』が立証されたら、今度は会社側に『待遇に違いはあるが、この違いが合理的な理由のあるもの』であることの証明責任が回ってきます。
会社が合理的な理由のある違いであることを証明できなければ
被告(会社)側の負けです
主観交じりとなりますが(1)の段階で等しき者であると証明できるケースはかなり稀有な事例ではないでしょうか!?
正社員の間でも完全に①職務内容②職務内容・配置の変更の範囲が同一である人間は、そうそうはいませんからね。
ただ、合理的な理由のある違いを証明するとなると、裁判官の心象が
①の不合理ゾーン→負け
②の合理的ゾーン→勝ち
③の合理的ではないが、不合理とも言えないゾーン→負け
ですから、苦しくなりますね。
ここでのポイントは、自らが第9条の正社員と等しき者であることの証明責任は労働者にあることですね。
ここまで見ると、同一労働同一賃金に、必要以上に構える必要はないと考えると思います。
均衡待遇についても、均等待遇についても法の適用を受けて利益がある者=労働者側の立証が必要ですからね。
しかしながら、だからと言っても会社として何も対策しなくても良いわけではありません。
それが、
の3つです。
事業主として、こういった説明義務を果たすためにも、現行の賃金規定の見直しや検討は少なくともすべきでしょう。
ここでも、先ほどのイメージ図を載せ、人事労務担当者や事業主、弁護士、社会保険労務士の常套句『解雇は難しい。不利益変更は難しい。』について、解説します。
まず、就業規則の不利益変更が難しいとされる理由から
どちらも労働契約法について、ですね
このように、法律は、就業規則の一方的な変更について
と就業規則の一方的な変更について②の合理的ゾーンに該当していることを会社に求めています。
つまり、裁判官の心象が①の不合理ゾーンにあるうちは当然のごとく、③の合理的ともいえないが不合理ともいえないゾーンにとどまる場合でも、
被告(会社)側の負けとなります。
同様に解雇が難しい理由についても解説します。
(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、無効とする
このように解雇は以下の2条件を満たした場合のみ有効とされます。
以上のことから、解雇の事実があった場合に会社が立証すべきことは
解雇が②の合理的ゾーンにあること&社会通念上相当であることを立証できなければ、
被告(会社)側の負けとなります。
規定内容 | 要約 | 条文根拠 | 禁止事項 | 立証責任 |
均衡待遇 |
前提条件が異なる者については、前提条件の違いに応じた待遇差にとどめなさい |
パート・有期法 8条 | 不合理な待遇差 | 労働者 |
均等待遇 | 等しき者を等しく扱え | パート・有期法9条 | 差別的取扱い=合理的な理由のない通常と異なる取扱い |
・等しき者について→労働者 ・合理的な理由について→会社 |
就業規則の不利益変更 |
・不利益変更には原則として合意が必要 ・合意のない不利益変更は原則として無効 ・合意がなくとも合理的と判断された場合のみ有効 |
労働契約法9条・10条 |
合意なき不利益変更 合理的な理由のない不利益変更 |
合意があったこと→会社 合理的であること→会社 |
解雇権乱用法理 |
解雇には ・客観的合理的な理由 ・社会通念上相当性 の2つを満たさなければ権利濫用すなわち無効 |
労働契約法16条 | 客観的合理性と社会通念上相当性のない解雇 |
・客観的合理性→会社 ・社会通念上相当性→会社 |
✅不合理な待遇格差の禁止
✅合理性という言葉が持つ広い意味
✅賃金総額に関しての格差を見るのではなく、待遇・手当の性質・目的から個別に合理性の判断
✅前提条件が同じであれば『均等待遇』が求められ
✅前提条件が異なるのであれば違いに応じた取り扱いをする『均衡待遇』が求められる
例:通勤手当について正社員には支給しているが、非正規労働者には払っていないケース
1・正社員にも非正規労働者にも通勤は発生する
2・通勤手当の性質は、通勤費用の補填
3・『正社員のキャリアだから通勤手当を支給する』この説明は不合理
このようなケースでは非正規労働者に通勤手当を払っていなければ、パートタイム労働法・労働契約法の下で違法とされ、遡って通勤手当の請求を命じられることとなるでしょう。
✅賃金規定の総ざらい
✅不合理な規定の洗い出し
✅雇用区分に応じた職務の分析・見直し
✅合理性の追及よりも不合理の解消こそが課題!
✅これを機に人事制度の見直しも視野に!
【コンサルティングフロー概要】
①事業の内容や就業規則、賃金規程、賃金の支給実態、正規労働者の職務内容・非正規労働者の職務内容などを調査・ヒアリングします。
②賃金の基本給・諸手当について合理的であるか否か、不合理といえるか否かを判断します。
③新賃金制度の移行のご提案・不利益変更が生じる場合、従業員への猶予期間を設定し、紛争リスクの予防措置
④新賃金規程の作成・制度の運用に問題がないか、専門家によるアフターフォローの実施※原則として、顧問先限定
【費用について】
①・・・・・稼働時間に応じた費用
②・・・・・項目数に応じた費用
③・・・・・別途お見積り
④・・・・・別途お見積り
申し訳ありませんが、顧問先事業所を優先とさせていただきますので、お問合せ頂いた場合でも、スケジュールの都合で、ご希望に添いかねる場合がございます。
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行政書士
佐藤 安弘
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